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◆Jan. 2005 新春談話
[症例:右手の小指球に突然の痛み 53歳 男性]
この患者、実は筆者本人(大場)である。お正月のお休みに入ったとたんに右手でなにも握れないほどの痛みが出てしまった。これでは仕事ができない! 圧痛は右小指球に限局している。Carpal tunnel syndrome(手根管症候群)であろうか?いや、位置が違う。痛みは豆状骨のあたりで、正中神経ではなく、むしろ尺骨神経支配部である。尺骨神経の絞扼部位となりそうな箇所を圧しても神経に沿った違和感もない。神経線維の圧迫である絞扼神経障害でもなさそうである。
注意深く触診してみると、長さ数ミリのすじ状の浮腫感がある。腱鞘瘤なのであろうか。とにかくこの小さな腫れをつぶすように強く押圧してみよう。 翌日、痛みがさらにひどくなっている。右手で歯ブラシも握れない。闇雲に力任せの治療に走ることの短絡さをしみじみ反省させられる。カイロも同じだ。力で治療しても良くなるはずがない。わかっていることなのに、不覚である。これはかなり良い専門医を見つけて診断と治療を受けなければいけないかなとも思ったりする。手指の治療はかなり難しいところである。へたな治療で癒着をもたらし、指がかえって動かなくなることさえある。やはり自分で治さなくては。自分の身体を治せないで、他人を治せるはずもない。
どんな動作が悪化要因となっているか考えてみた。一番の要因は、最近、自転車で駅まで通勤するときに、足腰を鍛えるために、できるだけ椅子に腰掛けずに立ったままでペダルを回し続けていた。そのとき意外にも腕にも負担がかかるのだなと感じていた。とにかく自転車のハンドルを握ったかたちが最も痛みを感じる。親指と小指の指腹を合わすようにすると、痛みがシャープである。小指対立筋の筋炎かも知れない。肩、肘、手首との動きの関連性を考えながら、痛みが緩和する各関節の位置関係を見出しながら、ポジショナル・リリースをいろいろと試みてみた。翌日、あまり変化がない。
私の最後の手段である身体呼吸で呼吸を通す治療法に賭けてみることにした。呼吸を通すという感覚は、筋と筋の間隙に流れを通すことであるが、それはリンパなどの体液的な流れを促すことである。もちろん血液、特に静脈血を還流させることもあるわけであるが、精妙な流れはむしろリンパのようなうっすらとした体液的な流れである。
体液にはさまざまな電解質があるわけで、それは電化を帯びた粒子の流れでもあり、エネルギーの流れでもある。一般に言われる気を通すという表現に近いかも知れない。この方法は、より精妙な流れであればあるほど良い効果をもたらすことができる。それは、現在、場の呼吸として呼んでいる、自分の身体の枠を越えた周囲の場と溶け込むようなかたちでの呼吸が最も効果がある。患者さんに誘導するこの場の呼吸を、いかに自分で誘導できるかである。私は、露天風呂に入りながらこの呼吸を自分で誘導している。
最初の体験は、秋田県の秘湯と言われた乳頭温泉郷に一週間ほど滞在し、低下した免疫的な力を回復させていたときのことである。湯に浸かっては、岩に腰掛けて身体を冷ましたりと、露天で過ごすこと数時間、不思議なことになんだか周りの木々が艶やかに、しかも空間に透明感が出てきた。この体験は、かなり昔に雨上がりの夜に気功をやっていたときに感じた透明感と同じである。眉間が涼しく感じられ、頭の大泉門のあたりがなにか開いている感じである。身体が場の呼吸となっている実感があった。話を戻すが、近所のスーパー銭湯に、一人だけではいる陶器でできた五右衛門風呂での自己治療である。冷えた空気の中で夜空の星を仰ぎながら、場の呼吸を誘導し、右手の小指球に左の手指をそえて、1時間近く、呼吸を通す感覚で過ごす。あまり大きな変化は起きていない。
翌朝、右手の痛みが7割かた改善している。あまり痛くない。これはすごい!お正月のお休み、今日も、五右衛門風呂を一人占めにして、同じように過ごすこと1時間。翌朝、ほとんど痛みが無い。なにを握っても痛みはない。これならだいじょうぶ、休みがあけたら仕事ができる。今年はお正月早々、自分の治療(身体呼吸)の凄さを実感し、今年は迷い無く自分の治療に自信を持って励めそうである。
[症例:急性腰痛症の場合]
新春早々、立て続けに急患が・・ 仕事始めの前にちょっと治療室でお勉強をと出てきた矢先、腰が痛くて仕事に行けないと急患が入る。勉強したいけどしかたがないと、治療することに。49歳の男性、暮れに診てもらっていた先生が入院して診てもらえないので、私を紹介したとのこと。
早速、身体呼吸で触診、L4-5(腰椎第4-5間)の椎間板が傷ついていると診断。矯正しても悪化するからと、早く傷が癒える方法が必要であると説得し、身体呼吸で治療する。終わってもあまり変化を感じていないようで、これでいいのかなと困惑した表情。こうした光景はいつものことである。そのたびにいつも気まずい雰囲気が漂う。しかし今回は違う。なんせお正月早々の自信がまだ続いている。確かに呼吸が通った感触があったので、翌朝、良くなっていますからわかりますと、いくつかの注意事項を話して帰らす。翌日、夕刻、治療室に入ってきたときの声が明るい。良くなっていると確信できた。本人が一番びっくりしながら、暮れにあれだけ治療してもらいながら良くならずにいた腰痛がどうして、あれだけの治療で良くなるのかと驚きと喜びの言葉であった。今年一年、手応えさえ実感できれば、こんな調子で自信を持ってやっていけるかも知れない。
休みが明けたとたんさらに急患が続いた。一人は、八ヶ月目を迎えた妊婦さん、腰も痛いが、なによりもうまく歩けず困っているという。お腹がとても大きくなっているためにうつ伏せで治療することもできない。とりあえず座位で、全体像をつかまえることに。左の骨盤が左外側下方に倒れ、そのために仙骨から腰椎が左凸に歪んでいる。
立った姿勢では、大きなお腹のために、腰仙関節の角度がかなり大きく、腰椎全体では正常のゆるやかな彎曲がなくなっている様相である。腸腰筋のアンバランスと、背部筋の疲労を解消することを目的に治療をおこなった。具体的には、患者さんに仰向けで寝てもらい、両膝を曲げて腰仙関節後方が伸展できるようにした。恥骨部から股関節にかけて、丸い棒を軽く圧し当てて身体呼吸を誘導し骨盤の歪みを改善させた。そして大腰筋を賦活させるために、最近考案した認知的な神経筋促通のための筋力賦活をおこなった。歩行がかなり改善したので、翌日、また治療をおこなうことにした。翌日、状態は改善していたが、物をとるとき前屈みすると、腰が痛むということであった。若干、仙腸関節がゆるんできているような印象があった。大腿筋を使って認知的な神経筋促通のための筋力賦活をおこなったが、右がうまく改善してこないために、他に問題があると判断し、頭蓋を通して身体呼吸の診断をおこなうと、尾骨を中心に動きがおかしいことがわかった。この問題を改善し、大腿の屈曲筋の筋力を賦活させることができた。これで様子をみてもらうことにした。
次の急患は50代の男性、温泉に行っていて脱衣所で髪を整えているときに冷えたかなと思ったら、腰が痛くしかも曲がった状態で上体を伸ばせなくなったとやってきた。両側の腸腰筋がスパズムを起こしているような様相で、とにかく腰の曲がったお爺ちゃんのような姿勢である。お腹にスポンジをあてて、うつ伏せで、とりあえず筋肉をゆるめることにした。筋肉のこのような攣縮(スパズム)は、呼吸が落ち着き、深くゆったりとした呼吸が出てくれば自然に緩む物である。どうしてもパニックになっていると、ゆったりとした呼吸は出てこないために、いつまでも緩まずにいる。とにかく、深く呼吸が出るようにすれば良いので、身体呼吸が最適である。身体呼吸を誘導していくうちに、腰椎が各レベルで微妙に複雑に偏倚していることがわかり、結構、やっかいな状況のようである。幸い、椎間板や軟部組織に傷はないようである。途中で咳き込んだために、腰椎がさらに後彎してくる。訊くと、喘息で旅行中、ひどく咳き込んでいたという。これで原因がわかった。激しい咳がこのような状況をつくり出したのである。時間がかかったが、ゆったりとした呼吸になり、緊張もほぼ軽くなったために、立たせてみた。腰を伸ばすことができた。痛みもかなり楽になったという。これで様子をみてもらうことにした。
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