◆身体呼吸と神経学による臨床談-小児治療について-

小さなお子さんの治療は、驚くような変化が劇的に現れくるために、実におもしろい。できることなら小児専門でやりたいくらいです。

治療は何かしてあげなければという思いが先にくるものですが、小児の治療にあたっては、この施術者サイドの勝手な思いは妨げとなります。いかに自分勝手な思いをなくして臨めるか、とても大事なことと認識するようになりました。 乳幼児、幼児、それに小学生のお子さんなど、毎日が発育途上にあり、極端な話、朝の印象と夜とではすでに違っていることさえあります。

神経系は柔軟性(可塑性)に富み、毎日、毎日、ダイナミックに変貌をとげています。この子達の成長を促しているのは、まさに自己組織化する生命そのものであるように思えます。 清水博先生の著書「場の思想」(東京大学出版会)は、生命の二重性を考えるためにすばらしい出会いとなります。清水先生は、個々の生命(局在生命)と、限りなくひろがる遍在的な生命(純粋生命)が互いに補ない合って存在していると考えています。私たちの生命の裡(うち)には大いなる生命があり、私たちの生命を支えていることを認識させられます。

小さなお子さん達はこの普遍的な純粋生命との関係はきわめて密であるように思えます。比喩的な言い方ですが、この子達が変調をきたすのは、大いなる生命との関係が曇っているからです。気の通り(身体の呼吸)をクリアにしてあげるだけで、自発的に体調を快復していきます。もちろんこれですべての病気が良くなるというわけではないのですが、何か大きな力を与えることは確かです。最近のいくつかの症例で示してみたいと思います。

 

 

[症例1.:1歳3ヶ月の乳幼児(女)]
副鼻腔炎からくる中耳炎、病気になりやすい

・お母さんからの相談メール・

ホームページを拝見し、どうしてもお聞きしたく、不躾だとは思いますが、どうぞお許しください。
1歳2カ月の娘のことでお伺いします去年総合病院に連れて行った際、水疱瘡になり、その後保育園に入園してから、風邪、白色便ウイルス、はやり目、とびひ、慢性副鼻腔炎、中耳炎など、間隔をあけることなく病気をしています。保育園に通っているのだし、色々な病気がうつるのは仕方がないし、水疱瘡が治ってすぐに登園しだして、体が弱ったまま次々と病気をもらってしまった。

又もともと体が弱いのだろうかなどと考えますが、最近中耳炎で鼓膜切開したところに又膿のようなものが溜まってしまいました耳鼻科で又切開や、抗生物質の薬を飲ませる事には極力したくありません免疫力をつけるような施術はできるのでしょうか、なにより1歳ちょっとの子供の診察は可能なのでしょうか。
ながながとすいません、ご返信いただければ、たいへん嬉しいです。宜しくお願い致します。

 

・ 大場からの返信メール

HPを見ていただきありがとうございます。 赤ちゃんはいろいろとありますから、お母さんもたいへんですね。
とかくお子さんの場合は、未成熟、未発達なためにいろいろとぶれが大きく出やすいものです。 医学的にはそれを薬で症状を抑えようとしますが、本来は自分で自分が修正できるように促すことが大事です。

もともとそれぞれ個々の生命は、大きな生命の個別的な現れですので、個々の生命が大きな生命に触れるきっかけさえつくってあげれば、お子さんの場合、自然に問題を克服していけることが少なくありません。

具体的にどのようなことをするのかと言いますと、身体をスッと通る息が眉間と大泉門から入りお腹から足の親指に抜けるような感じがでますと、自分で自分を正しく修正するきっかけとなります。 一歳のお子さんですから、お母さんに抱いてもらって治療が可能です。いわゆる換気的な肺呼吸の裡にあるリズムをとらえ、全身的な呼吸運動へと転換させます(身体呼吸療法)。

 

[治療経過 H16.7.12の初診から、数回ほど施術 ]
お母さんに赤ちゃんを抱いてもらい、少し離れたところでリズムをつかまえました。
しだいに緩やかなリズムが優勢になると、指をしゃぶり始め、眼がトロンと入眠しやすくなり、そのままテーブルに寝かせ、身体呼吸運動を誘導し上記の呼吸を通す治療としました。
気管支、それに左耳にとくに粘着性の通りの悪い感じを印象にもちました。 初回日の翌日にお母さんから電話があり、お医者さんの診察を受けたところ耳の炎症が治っているとのこと、あまりにも速やかな反応に驚きました。 数週間おいた間隔で二回ほど治療をさせてもらいましたが、その治療の経過をお母さんにメールでご返事いただきました。

 

・ お母さんからの報告

昨日久しぶりに耳鼻科にチェックにいったところ、引き続き耳と鼻の調子は良かったです。

初回の施術後に外でララの顔を見たときまさに頬が[バラ色]になっていて、薄々思ってはいましたが、それまでいかに顔色がくすんでいたかわかりました。二回目の治療後は二日間さらに黄色い鼻水が増え、(ちょうど風邪をひいてからのピ−クがその日にあたったのかもしれませんが)とにかく汚い鼻水がびっくりするほど急にでて三日後からひいていき中耳炎が治りました。

三回目の治療後はすぐならびにできたファ−ストフ−ド店に入ったところ、しきりにこんこんと咳をしはじめ、胸の治療をしていただいた直後だったので母親としては少し心配になりましたが翌日にはまったく治っていました(これも若干風邪気味で少し咳っぽかったのとすぐ横の男性がチェ−ンスモ−クしていたのもありますがふだんはその様な状況でも咳こんだりはしません)。

以上、治療後はいったん症状が強く出るような感じをうけました。母親の思い込みと言われればそれまでですがわたしは自分の親としての勘に自信を持っていますし、勘を研ぎ澄ますことを怠りたくないと思っています。 たいしたことない内容ですいませんがこれが気付いたことの全てです。
これからも宜しくお願いします では失礼します。

 

*症状とは、病気との闘いによる生体反応をみなすなら、症状が治療後に一時的に悪化することは、必ずしも悪しき反応とは言えないこともあるでしょう。


 

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[症例2:7歳の女子]
両下肢のしびれ:5歳くらいからビリビリし始め、2年間続いている。    二日に一度は頭痛があり、眼痛がでることもある。

「普段は何でもないこともあり、元気に走り回っているが、たまにしびれが出始めると歩けなくなるほどである」とお母さんが話してくれた。MRIなど医療検査でなんら異常が見つからないとのことであった。

 

[H16.2.11初診時の所見]
左顎関節に不整合が感じられ、訊いたところ片咬みの傾向が認められた。そのために頸部にアンバランスな緊張が認められた。 身体呼吸で探った感触は、左右差が著しく、左半身が凝縮し、右半身は活動性が乏しく、エネルギーが虚している印象をもった。 脊柱には、下部腰椎に筋の緊張と歪みが認められた。 その他、神経学的に特記すべき異常は認められなかった。

 

[施術方法]
異常の認められた部位(腰、顎関節)を段階的に自分の両手で左右触れさせ、眉間から身体長軸方向にスッと通る息を通すだけの治療とした。 お母さんが言うには、「いろいろと治療してもらったが、かえってしびれがでてしまう」ということであったので、できるだけ何もしない治療を心がけた。

 

[治療経過]
この女子は「治療後すぐに軽くなった気がした」とお母さんに話している。 一週間から二週間の間隔で、4,5回ほど治療し、その後1ヶ月後に状況を確認してみた。症状の再発はほとんどなくなってきていた。しばらく様子を見てまた連絡をしたいということであったが、元気に学校に通っていることを願っているところです。


 

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[症例3:小学5年生の男の子]
姿勢が悪いので診て欲しいと、患者さんであるお母さんが連れてくる。

 

[H16.8.25 初診時の所見]
立位の姿勢で右足の内転が左より内転ぎみ。 骨盤帯を回転させて股関節の動きをみると、右側の股関節周囲筋が抵抗しめす緊張感が感じられる。 胸郭が歪み、右下部肋骨の肋軟骨が盛り上がり内方へ偏倚ぎみである。うつ伏せでみると、右骨盤が後方に回転し、右臀部の緊張が著しく、左胸郭の後部が盛り上がっている。

以上の所見から判断されることは、右剣状突棘側方に加重がかかり、その重力線が右股関節から右足内側へ偏倚している姿勢が思い浮かばれた。そのことを話すと、バイオリンを小さいときから続けていて、左腕にバイオリンをかかえると左肩が上がる癖があり、教師から身体のラインがまっすぐになっていないと注意されていることを話してくれた。

治療は、呼吸が身体正中をまっすぐ通るように考え、もっとも障害となっている剣状突棘周辺、すなわち横隔膜の動きをなおす。それから頭蓋の呼吸運動をリリースし、再度、姿勢をみてみると、上記の所見がかなりクリアになっていることを、お母さんと一緒に確認できた。

呼吸がきちんとすることで、姿勢が大きく変化することに驚きを隠せなかった。 家でできるように正しい姿勢の取り方を教えてみた。剣状突棘を少し前上方に、胸を少し張るように指示しても、これがまったくできない!運動感覚、身体感覚がほとんど発達していない。それではということで、両足の前足部分でまっすぐ立つように指示、それでも身体がグラグラでまっすぐ立つこともおぼつかない。とにかく頑張ってまっすぐ立てるようにしてみてと課題を与えてみた。


 

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◇おわりに◇

帰郷した折りに、歩行がおかしいという1歳10ヶ月の女の子をみてほしいと、お婆ちゃんがいきなり女の子を抱き寄せて私の前に突き出してきました。
驚いたのはその女の子で、泣きながらなんとか逃げようと必死です。何か嗅ぎ取ったのでしょうか。これまで病院でいやな思いをしてきたのでしょう、とても診察できるような状況にはなりませんでした。 まだ物心のつかない小児では、いかに自然に接触をもてるかが大きなカギになります。その意味でこのときは失敗に終わったしだいです。

かなり前に、自閉症のお子さんを診たときにはもっとたいへんでした。室内に入るやいなや、泣き叫び、とうてい落ちつかせることができませんでした。何回か外で何気なく接触してようやく、室内で治療を始めることができたという経験もあります。実に敏感に何かを嗅ぎ取り、過敏な反応をしめす子供達です。

話を本題にもどして、つい最近の事例でお話します。3歳の女の子ですが、妊娠時の障害から小頭症で生まれ、ほとんど発育発達していない、とても小さな赤ちゃんのままのお子さんです。眼と頭は右を向いたままで、まったく体動をしめしません。なにかぐったりした感じで、手にしたとき、はたしてこの子は無事生きながらえるのだろうか心配になったほどです。
ところが、二回目にきたときは、眼をいろんな方向に向け、なにか光に反応しているようであり、しかも初回に認められなかった瞳孔反応がでていたのです。しかも手足をさかんに動かし、とても元気になっているのです。
このとき、両親と妹さん、家族みんなでいらして、とてもすばらしい家族のように見えました。この子のために家族みんなが愛情をそそいでいることが推察できました。ご両親の話では、治療した夜になにか興奮したように身体を動かし始め、どうしたのだろうと思ったとのことでした。それに今まで一度も見せなかった腹這いになって動くしぐさを見せ始めたとのことでした。

この子の成長は長い目で観察していかなければなりませんが、確かに何か不思議な力が働いたような気がしています。 言葉で自分のことを伝えられない小児では、いかに言葉に頼らない身体情報を治療家はつかまえられるかということがありますが、身体呼吸療法はリアルに身体の状況が把握できますので、小児治療に大いにその力を発揮できるような気がします。ご理解のある医療関係者の方々と協力して、私たちが小児治療ができる環境が整備されることを願っているしだいです。

 

   ◆新春談話
   ◆小児治療の症例報告
   ◆小児治療の症例報告2
   ◆臨床からの生命観
   ◆小児治療の症例報告3

 

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