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◆身体呼吸と神経学による臨床談-小児治療2:奇跡か神秘か-
小児の神経系はきわめて可塑性が高いために、大人ではみられない驚くほどの変化がみられます。重度のてんかんのために、脳の半球を除去された小児でも、片側の脳半球がそれを補い通常の発育はもちろんのこと、ときには驚くべき才能を開花させることもあることを新聞で読んだこともあります。それだけ小児にはかぎりない可能性が秘められています。
その秘められた可能性をうまく引き出すことが私たちの役目と思っていますが、私たちの分野では往々にして施術者自身の考え(理論)が先に立ち、こうかな、あれかなとあれこれ無理な治療を強いているように思えます。このような治療ではたいていうまくいきません。私たちだけでなくすべての生き物は、この地球で大きな生命(いのち)に育まれて生きています。可塑性の高い小児こそ、この大きな生命にゆだねてこそ解決する問題があるように思えます。秘められた可能性が開く為すべきすべがあります。それは大きな生命に、小さな生命を開いてあげることと確信を持ちつつあります。
何か神秘的なことを言っているようですが、そうではありません。ちょっと長い前置きになってしまいますがおゆるしください。
古来から仏教哲学で語られてきた智慧ではあります。生命科学や情報科学など多くの分野にわたって活躍されてきた清水博先生が、現代風に「場の思想」として語っていることに通じています。私がこれまで身体の呼吸運動を臨床的に研究してきた過程で、清水博先生の学問に出会い大いなる啓発を受けてきました。清水博先生が明らかにした生命活動のリズム運動の引き込み現象、動的協調性の秩序形成にはじまり実に多くのこと学ばせていただいていますが、今現在は、仏教に語られている生命の智慧と現代科学によって共創される新しい科学技術のあり方を学ばせていただいています。
清水先生は、生命には遍在的生命と局在的生命という二つの活き(はたらき)が同時的に存在していると説いています。局在的生命の活きが遍在的生命に包み込まれるように互いに補うように存在しているというのです。遍在的生命とは場であり、自然であり、地球という生命体です。
小児の問題には、遍在的生命と局在的生命が相補的なはたらきが通じ合っていないことがあるようです。こうした問題は、互いに通じ合うように開いてあげることで問題が解決することになるわけです。このためには呼吸がきわめて重要な役割をはたしてくれます。呼吸は身体の枠を超えてひろがりをもつことが可能です。
そのような呼吸を、私は「場の呼吸」と呼んでいますが、透明感のあるひろがりとして感覚化できます。小児はこの透明感のあるひろがりができるように、施術者である私自身が透明感のある呼吸で接するだけなのです。若いお母さんが一緒に連れて治療に来たときなど、赤ちゃんが鼻炎や中耳炎などでぐずついているときに、そっと施術してあげると翌日には良くなったと報告してくれる方が多くなり、少しずつ確信的な思いができてきていました。今回、それがさらに大きな確信として実感できたケースです。
[症例1.:○本 ○司 生後8ヶ月(H17.3月初めころ来院)]
最初はお父さん自身が左の首筋がつらいという愁訴で来院。
身体呼吸でみると左胸が重く曇った感じがあり、なにか悲しいことあるんじゃないですかと尋ねたところ、赤ちゃんのことを話し始めました。
出産時、臍帯が巻き付き心肺停止の状態に近かったということで、ミルクを飲むことができず発育が著しくそこなわれている状況にあることを話してくれました。
「実は、赤ん坊の方の治療に適しているかどうか試しに来てみた」ということであった。父親の症状が数回で解消していったために、安心して赤ん坊を連れてくることになったのです。
手に抱いた赤ん坊は、鼻から細いチュープを差し込み、そのチューブが頭に貼り付けてありました。赤ん坊はほとんど身動きせずぐったりとした感じで、眼は右を向いたままで、微妙に眼振が起こっていました。どちらの方向に急速相があるのかわからないほどです。涙の出方を尋ねると、右眼からはあまり涙が出てこないとのこと。小さな手のひらに、指で触れても握り返してきません。眼で見ている対象に注意がいってないようです。ときおり仁王様のような原始反射的な動きが見られることもあります。表情に偏りはありませんでした。泣いたりもしないので口の中を見ることができず、舌の偏りなど確認はできませんでした。
これまでの経験から、最初はスッと透明な感じに接触できるように、ほんの一瞬だけにとどめました。できるだけこちらが大きな介入(侵入)とならないように注意をはらったわけです。私がちょっとの間抱いていた赤ん坊を返されたお母さんには、何をしてもらったのかもわからずに戸惑ったかも知れません。最初はあまり刺激したくないことを告げて、様子を後日聞かせてもらうことにしました。
お母さんがミルクをあげるのに、注射器を取り出しチューブから数回ミルクを押し出している様子を目の当たりにして、痛いほどつらい親御さんの悲しみが伝わってくるようでした。
最初の治療から翌日、これまでになくミルクを多量にしかも速やかに自分の口から飲んだと言うことで、お母さんが喜びと驚きの様子で電話をくれました。ひょっとしたらミルクを飲めるようになるのかも知れないという期待感が、最初の出会いから膨れ上がってきたのです。
二回目に来院されたときには、両眼は左にも向くようになっていました。母親をさがすような気配もありました。小さな手のひらに触れると握り返してきます。確かに何か変わった印象が強く感じられ、初回の接触がこれほどの変化を起こすものかと私自身、驚かされました。今回もまた、できるだけ介入を避けるように一瞬、透明な呼吸で接触しただけでした。そしてお母さんに返すと、一緒に連れ添ってきた初孫で心配でしかたがないというお婆ちゃんが、エッと驚いたように「これでわかるんですか」と声をあげたくらいです。お母さんは、「抱けばいろいろとわかるようです」と応えていました。これまでにもなくミルクを飲み始めたという出来事で強い信頼を得ることができたようでした。この赤ん坊にとっても幸いなことだったと思うわけです。
何の変化もなかったらこのような信頼は簡単に得られるわけでもないのです。運があったのかもしれません。週に二回、こうして赤ん坊を治療することになりました。徐々に神経学的な刺激を加えることも併用しました。あるとき右眼から涙がジワッとわき上がってきました。確かに刺激が伝わっているのです。
二ヶ月近く経ったのでしょうか、あの痛々しいチューブが付いていません。尋ねると、かなり自分で飲むようになり、治療室ではヨーグルトを一つたいあげるほどになっていました。これで最初の親御さんの希望であったミルクを自力で飲めるということが叶ったのです。
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写真 数回の治療で元気に手足を動かすようになった○司くん
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他の困っているお子さんのために、このケースを役立てたいという希望を伝えたところ、親御さんが下記のようなメールとレポートを書いてくださいました。貴重な資料として付記させていただきます。
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・ お母さんからのメール
10ヶ月の子供を持つ母親です。
私の子供は生まれる直前に臍帯が腹に巻きつき、仮死状態で産まれました。 すぐにNICUのある病院に搬送されたのですが、顔には痙攣があり、ミルクが口から飲めず、CTでも出血と脳の腫れがあり、低酸素性虚血性脳症と診断されました。
2ヶ月半の入院中、痙攣はなくなりましたが、相変わらず経管栄養で、体は硬直し、足先は内側をむいてクロスし、手が小刻みに震えて、いつも右側ばかりを見ていました。
泣いて医師に相談することもありましたが、「なるようにしかならない」 という答えしか返ってきませんでした。 鼻注の方法の訓練を受け、退院した後、こういう子供を治療したことがあるという人を頼って、指圧に週2回から3回のペースで5ヶ月間程通いました。その甲斐あって、いつも親指が内側に曲がっていたものが開くようになったり、硬直していた足が外側に開くようになったりと、成果が上がったように思います。
しかし、その先生からは、「脳を直接触ることが出来ればいいのに」、「もう限界だ」と言われ泣く泣くそこを去ることにしました。その後、神にもすがる思いで主人が必死で調べた結果、大場先生を知りました。当初、鼻注もとれず、眼振があり、体がつっぱったりして泣くこともほとんどない子供でしたが、
通って一ヶ月後には眼振もとれ、思った方向を見るようになりました。
入院中に医者からは「沢山の子供を見てきて、鼻注ははまず取れない」と言われた鼻注がとれ、食欲が出てきました。そして、今までほとんど動きがみられなかった左足が良く動くようになりました。
まだまだ泣く回数は少ないのですが、一人にすると泣いて親を呼んだりと感情面が大くきく発達してきていると感じています。
リハビリセンターの理学療法士には2週間前と比べて随分よくなったね、と言われています。今はまだ首がしっかりと据わっていないのと、寝返りをうったり、ものに対する興味が希薄な面がありますが、徐々にでもひとつずつクリア出来たらいいなあと考えています。
これからも先生のお力を借りて良くなって行くことを願っています。
平成17年5月15日 ○本和○江
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・お父さん書いてくれたリポート
○本 ○司 H16.6.24
午後11:20生 38週3日
体重2160g 身長45.7cm 胸囲28.0cm 頭囲30.8cm
生まれた時の状況 新生児仮死 低酸素性虚血性脳症
アブガースコア1分値:4 5分値:6
腹の中でさい帯がおなかに絡まり30分程心拍停止
その後 君○中央病院に搬送 2ヶ月間入院
出生直後に撮影したCTでは、脳内の出血・脳の浮腫が認められる。
◇君○中央病院での状況(出生〜2ヶ月間)◇
・保育器には1週間。ただし、高濃度酸素は1日のみ。
・当初、痙攣に似たような動きがあったことから、痙攣止めを使用(2週間)。
・ミルクは口から飲むことを嫌がるため、経管栄養を実施。但し、つばは当初から飲み込めた為、吸引は最初の2日程度のみ、
・入院中の特徴として、1.全体的に体の緊張が強い 2.足の緊張が強く、足先がクロスしていた 3.親指を常に内側へ曲げていた 4.寝ている時間が少ない 5.体重の増えが非常に遅い 6.音に反応し、体をびくつかせる ことがある。
・MRIは出生後49日目に撮影 → 大脳基底核の損傷が見られるとの診断
・聴力検査を実施。右の耳が聞こえていないとの診断 → 出生4ヶ月時に、もう一度同じ病院で測定。このときは聞こえていることが判明(実は前回の測定時に起きていて、正確に診断できていなかったらしい)
・体重2500gを越えた時点で退院(9/1)。
◇病院退院後〜 ◇
・週2〜3回指圧に通う
・指圧の効果により、親指の曲がりはなくなる。
・ミルクを時間をかけて飲ます→一回当たり70ml位飲む。ただし、その時々でムラが大きい。
・追視はするが、目が右を向きやすく、また左にはほとんど向かない。
◇H17.2月末時点 ◇
・頻繁に声を出す。また、遠く離れているときには声を出して呼んでいる模様(そばによると静かになる)
・手足を動かしたり、話しかけたりすると、口をあけてうれしそうな顔をするが、声を上げて笑うところまでは至らない。
・自ら手を出して何かをつかむことはめったにない。但し、ぶら下がっているおもちゃに対し、手で払うしぐさは行う。
・ミルクを飲ませようとすると、哺乳瓶やスプーンを見ただけで、手で払いのける。また、口に含んでも、舌で押し出したり、いったん含んだ後しばらくして吐き出す傾向がある。但し、飲み込めないわけではない。
・夜はおなかがすくと目が覚めるが、基本的にはゆっくりと寝ている。(昼夜逆転はない)
・大きな音に対し、びくっとする事はあるが、泣き出したりする事はない。
・寝る前等、力が入ったときに、体をねじるようにして顔を左側に向ける。
・眼振が出ている。
◇大場徒手療法研究所に行き出してからの状況(4月現在)◇
・リラックスした時に足が柔らかくなる(3月中旬)
・左足の動きが鈍かったのが、頻繁に動かすようになる(3月中旬)
・目が右ばかり向くことが大幅に減少し、よく左を向いている。眼振もほとんど出なくなった。
・食事のスピードが速くなる(4月中旬) → 鼻注をはずす(4/29) 但し食べ物を口に入れた時に嫌そうにするのは変わらず。
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