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◆しびれ、痛みの症例報告(末梢神経障害)
伊藤彰洋 DC (名古屋市中区金山1-15-2 ネストF2 Tel.(052) 331-3358)
末梢神経は複雑で、わかったようで意外とわかっていないものである。時として、末梢神経リージョンと脊髄神経根リージョンの鑑別すら難しいことがある。恐らく両者を併発している場合も意外と多いのかも知れない。
臨床は教科書通りに行かないことが多いが、それは我々が治療対象としているのは生身の体だからではないだろうか。人体は変異variantが少なくない。解剖学では、心臓は体の左側にあり胃や脾臓も左側で、肝臓や胆嚢は右側に位置すると習う。
しかし、実際には内臓が全く逆についている人もいる。それに気付かないと打診や聴診や触診でとんでもない結果を出してしまう。脊椎にも異変が多くある。椎間関節面が左右異なっているケースは意外と多い。パルペーションでの留意点である。もちろん、神経の走行経路にも異変がある。骨や筋肉や靱帯の隙間を縫うように走っている末梢神経が、その経路に変異があるのであれば当然絞扼される部位も筋肉も違ってくることになる。同じ神経障害であっても、シビレの出現領域が人によって異なることにもなる。そういった意味でも、臨床は白黒はっきりしない「グレー」な部分が多いのかも知れない。
[症例1. 46才主婦]
1ヶ月前より突然発症した右肩(利き腕側)の痛み。
「腕の付け根が重く痛い」。高校生の息子さん(身障者)の身の回りの世話をするときに特に痛む。過去にも五十肩様を患ったことがある。その時の痛みに似ているということから、「また今度も同様の肩関節周辺炎だろうと」軽く考え、検査もそこそこに肩周辺の治療をしたところ、症状が悪化してしまった。3回目の来院時には、右肩痛に加えて右手掌橈側および第1〜3指にしびれが走るようになっていた。
皮膚領域(デルマトーム)でいうと正中神経の支配領域。「手根管症候群でも併発したかな」と思い各種整形外科検査を行ってみるが全て陰性。「さては正中神経が肩関節のあたりで傷害されたため、手根管部の正中神経が敏感になり、知覚枝を侵害してしびれを出しているに違いない」と「ダブルクラッシュ症候群」(神経線維中の軸索輸送が妨害されて、傷害を起こした神経の上位または下位に症状を出すもの)の理論を持ち出してみるが、正中神経が肩関節付近で傷害されるのは、よほどの場合である。橈骨神経ならば、腋窩で絞扼を受けることがある(土曜夜麻痺Saturday
night palsyや松葉杖の使用等)。あるいは上腕外側部をぶつけたりして痛めることもある。しかし、正中神経の肩関節周辺での傷害は真っ先に選択肢から外される。もし肘関節より遠位であれば、回内筋での神経絞扼障害や手根管症候群などがある。
ともかく神経根レベルを含めた各種検査を、もう一度初めからきちんと行ってみると、C6、C7のデルマトーム領域で右側の痛覚が低下。
整形学的検査では、Foraminal Compression他の頚椎椎間孔を圧迫させる検査で陽性になる。神経根圧迫が疑われる。完全な誤診。
「五十肩」という先入観がいけなかった。肩が痛いというのは患者さんの認知cognitionで(患者さんがそう感じていただけで)、実は神経根痛が肩に放散していたと考えられる。幸い知覚症状は出ているものの運動障害はなく、3週間後に症状は消失し、前述の知覚検査も整形外科検査も陰性に転じてくれた。C7神経根症の場合、上腕三頭筋の伸張反射は消失するか減退する。ただし、C6神経支配である上腕二頭筋と腕撓骨筋は免れる。一方、撓骨神経麻痺あるいは撓骨神経絞扼障害の場合は、上腕三頭筋の伸張反射は無傷のことが多い(Durrant)。
(図1 神経根圧迫要因: _黄色靱帯の肥大、_炎症部、神経周膜浮腫、_椎間板ヘルニア、_神経周膜線維形成、_鉤状突起肥厚/椎体突起肥厚、_神経内膜浮腫、_椎間関節症肥厚、_滑液嚢胞)
[症例2. 40才男性会社員]
主訴、左上肢の痺れ。運動不足解消にとダンベルを使った筋力トレーニングを始めたところ、約一ヶ月後に左後頚部から左肩甲骨部にかけて寝ちがい様の筋肉痛が発現。その一週間後に上肢に痺れが走るようになった。
痺れはじっとしている時にも現れるが、頭を患側に倒すと低周波刺激のようなビリビリ感が走る。
シビレ感が最も強い部位は、母指と小指以外の3指(示指、中指、薬指)の腹側・背側、手掌および手背、そして前腕の外側部と上腕後部である。また、症状は異常感覚のみで運動機能の障害は無い。患側上肢をだらりと垂らし、頭を患側に側屈もしくは過伸展しながら側屈すると症状が増悪する。少し前に撮影したMRIでは、わずかな椎間板の膨張がC3/4,C4/5,C5/6にみられるが、椎間板変性疾患の徴候は画像上には認められない。
小胸筋の緊張を緩和させると一時的に上肢のシビレ感が消失する。肩甲挙筋でも同様な緩和が見られる。症状から察するとデルマトーム (皮膚分節)のC7神経根レベル。もし正中神経ならば、上腕には影響は及ばない。特に上腕と前腕の後側に発現するのは橈骨神経となる。
Eden's検査をすると、症状が再現されることから胸郭出口症候群とも疑われる。これは腕神経叢が胸郭出口部分で絞扼されるもので、複数の末梢神経レベルに影響を及ぼしうる。ただし、頚部の傾倒によって顕著に症状が起こることから、神経根レベルでの障害が最も考えられる。治療にあたり、患者は以前から習慣的に首をポキポキと鳴らしており、頚椎の関節部が弛んでハイパーモビリティを呈した不安定な状態になっており、そうした関節へのマニピュレーションは禁忌となる。まずは自分で首を鳴らさないことを指示。
知覚低下などの感覚鈍麻hypesthesiaは、通常デルマトーム領域に沿って現れるが、錯感覚paresthesia、痛みはぼんやりと広がる。こうした疼痛のことを椎節痛sclerotomal
painといい、筋や深部組織からの求心性線維が神経根レベルで障害されているときにみられる。神経根障害には、血流障害の問題も大きく関与していると思われる。局所的の神経線維への血液供給の約半分は神経上膜(神経鞘)からのものであるという(Durrant)。患者の訴えだけから判断することは難しい。神経根障害に伴う
うずくような痛みshooting painは、神経根内や脊髄神経内にある再生中の軸索が出している知覚過敏および自発的活動によるものかもしれない。
「神経根侵害徴候」nerve root irritability signsという言葉がある。過敏になっている神経根に機械的刺激を加え、神経根症の診断材料にするものである。整形外科検査がそうである。これは神経根症の早期に起こるサインであり、中程度の神経根症では、知覚脱失や反射異常や筋麻痺よりも先に出現する徴候である。
整形外科検査で症状の再現もしくは増悪するか否かは、診断の大きな手がかりになる。上肢に放散痛が出ている場合、次の手順で行うと複数の整形外科検査を短時間で行うことができる。全て座位で行う。まず患者に能動的に患側手掌を頭の上に乗せてもらう。これで放散痛が消失すれば神経根症の可能性がある(Bakody徴候)。次に、頭を左にいっぱいに回旋し、そこから伸展そして屈曲してもらう。右も同様に行う。症状の再現があれば椎間孔での神経根圧迫を疑う(Maximum
Cervical Compressionテスト)。ここまでは患者が能動的に行う。次に検者は、患者の頭上に両手を置き、頚部に下方向への力を加え、頭を左右にゆっくりと回旋させる。症状の再現があれば陽性とみなし、椎間孔での神経根圧迫を疑う(Foraminal
Compressionテスト)。今度は頚部を患側に側屈させ、下方向への力を加え症状の再現をみる(Jackson Compressionテスト)。そして、患者の顎関節に気をつけながら、頭部を上方向に牽引し、症状の軽減や消失を調べる(Distractionテスト)。
要するに、症状が再現あるいは一番増悪する動作、および逆に症状が一番軽減する動作を見つけ、それによって原因を判断していくわけである。(Illustrated
Essentials in Orthopedic Physical Assessment, Ronald Evans, 1994,
Mosby)
本患者の場合、上記テストは全て陽性であった。
臨床で重要なことは、C7神経根症の場合、上腕三頭筋の伸張反射は減弱・消失するが、C6神経支配筋である上腕二頭筋と腕撓骨筋の伸張反射は保たれるという点。C7神経根症と似ているものとして、撓骨神経絞扼障害があるが、絞扼点が腋窩でない限り上腕三頭筋の伸張反射は保存される。腋窩での撓骨神経絞扼としては、酒に酔っぱらってイスの背もたれに腕を垂らして寝てしまった時、あるいは伸ばした上肢を腕枕にして寝てしまった後におこる「土曜夜麻痺」や松葉杖の誤使用などがある。
C7神経根症では、上腕三頭筋に加え、大胸筋の不全麻痺paresis(部分的な、または不完全な麻痺)を呈すことがある。特に大胸筋は、複数の神経支配を受けているため、患者自身が不全麻痺に気付くことは少ない。そこで、上記の2つの筋を同時に検査する方法として、患者に腕立て伏せをしてもらうやり方がある。C7レベルの弱さがあれば、患側が疲れやすかったり動作がぎこちなかったりする。床での腕立て伏せが困難であれば、壁を使って行うこともできる。
本患者は、客観的には腕立て伏せでの運動障害は見られないが、ちょうど上腕三頭筋あたりに「引っ張られるような違和感」と錯感覚があり、動作がしにくいと訴えた。
[症例3. 54才男性 会社役員]
腰痛と右側大腿前外側痛で来院。ゴルフ コンペで18ホールをまわった後、歩行中に本症発現。翌日になっても痛みは一向に軽減せず、かえって時間を追う毎に悪化し出したため急いで来院。職場では机に向かっていることが多く、椅子に腰掛けていると痛みが軽減して楽になる。立っていると痛みが増悪する。来院時、腹臥位になると痛みが激しくなり、その状態を一分間と続けることができなかった。仰臥位では痛みが消失する。検査では、症状が出ている大腿前外側部の異常感覚や知覚過敏などといった知覚系の所見だけで、筋力低下や反射などの運動系に問題はみられなかった。この患者はかなり太り気味で、お腹が大きく前に出てしかも鼠径部に覆いかぶさるようになっているため触診しづらいが、鼠径部の上前腸骨棘ASIS内側あたりが健側に比べ敏感になっている。ただし、触診で症状の再現はみられなかった。診断は、「知覚異常性大腿神経痛」Meralgia
Paresthetica。(図2 知覚性大腿神経痛)。
純知覚枝である外側大腿皮神経が上前腸骨棘で絞扼されるもので運動障害は起きない。患者は最近、体重が10キロ近く増えたということで、発症要因はおおよそ見当が付く。窮屈になったズボン、ベルト、腹圧、ゴルフ等々。治療は、痛みが楽になる姿勢で骨盤にブロッキングをし、腹斜筋、大腰筋、大腿筋等の過緊張/低緊張部を中心に、トーヌスをなるべく左右均等になるような方法を試みた。2回の施術で痛みの発現無しで腹臥位になることができたが、職場に戻り立位の状態を続けるとじっとしていられなかった。痛めた神経が回復するのには時間もかかるし、その間に減量のことも考えてもらうことにした。知覚異常性大腿神経痛は多くの場合、上前腸骨棘内側あたりに圧痛部があり、症状を再現できる(Tinel徴候)のであるが、本患者では太りすぎのため正確に外側大腿皮神経を刺激できず、この徴候はみられなかったと考えられる。診断は、症状の発現領域から、そして股関節の整形外科検査が陰性であること、また、知覚低下領域を認めることができた(触覚の低下)ことに加え運動障害は見られなかったことから知覚異常性大腿神経痛ということにいきついた。
明らかな知覚異常性大腿神経痛とわかっていても、必ず運動検査を行い、大腿神経の関与の有無をチェックすることが大切である。大腿神経も鼠径靱帯下を通っている。鼠径ヘルニア、骨盤内手術の他にも後腹膜腫瘤や骨盤内腫瘤といった重篤な病理で大腿神経の絞扼障害が起こる(図3大腿神経絞扼部位)。大腿四頭筋の筋力テスト、膝蓋骨での伸張反射は必ず行うようにしたい。
[症例4. 46才女性店員]
2〜3ヶ月前から右手に痺れが始まり、最近になって左手も痺れる。夜寝ているときにシビレ感で目を覚ます。
痺れは両手をぶらぶらと振ってやると治まっていく。手全体が痺れる感じで、前腕前面にも同様なシビレ感が生じる。時々頚部の痛みおよび肩の凝り、上腕痛に悩まされる。
X-ray検査では、胸椎頚椎部に軽い側弯、下部頚椎に変性が確認されている。二点識別検査および触覚検査は手掌と第1〜3指で低下しているが、痛温覚は逆に過敏になっている。手首を検者の指で軽く叩打すると手掌/手指に症状の再現がみられる(Tinel徴候)。また、手関節を掌屈位に保持することにより症状が再現される(Phalen徴候)。
これは典型的な手根管症候群(CTS:carpal tunnel syndrome)の症状である。手根管症候群は、手をよく使う仕事に就いている成人女性や妊婦の罹患率が高く、利き手に発症する(約3割は両側性)。初期症状はシビレ感ないし異常感覚dysesthesia、錯感覚paresthesiaに始まり(頚椎症は痛みに始まるケースが多い)、多くの患者が夜間にシビレ感や痛みが発現して目を覚ますのが特徴的。知覚障害が主訴になることは少ないが、進行すると運動障害に進展する。さらに進むと母指外転筋の脱力や、母指球に筋萎縮が認められるようになる。ただし、我々のところを訪れる患者の多くは感覚異常のみの初期症状で来院するため、筋萎縮を伴う運動障害をみる機会は少ないかも知れない。
本患者の場合、初期検査では手の痺れ、知覚過敏といった感覚系のみであったが、注意深い筋力テストで軽度の母指掌側外転筋の筋力低下が認められた。母指掌側外転筋のテスト方法は、母指を手掌から垂直方向に離してもらい、そこで力を加える(図4 母指掌側外転筋の筋力テスト: 図左は母指掌側外転筋(正中神経)、図右は母指対立筋(尺骨神経)の筋力テスト)。
頚部痛や上腕痛が発生した原因を考えた場合、原因のひとつにリバース ダブルクラッシュ症候群reverse double crush
syndrome(神経線維中の逆行性軸索流途絶による神経細胞自体の栄養障害のため進行性軸索流が低下するため、神経の近位部が障害されやすくなった)(廣谷)を考えれば理解できるし、治療の手掛かりにもなる。
[症例5. 38才主婦]
母指側の手首から手背にかけてのシビレ感。時々触ると痛むという。最近、日曜大工やガーデニングなどに多くの時間を使っていたという。近所の施術院で腱鞘炎の治療を受けるが症状は軽減せず。
所見は、手関節から手背の撓側にかけての錯感覚、異常感覚がみられるだけで、運動障害はない。撓側前腕遠位を叩打すると放散痛が発現する(Tinel徴候)。Finkelsteinテスト(ドゥ・ケンバン病de
Quervain disease:狭窄性腱鞘炎の誘発テスト)で、やや不快感を抱くが、腱鞘炎のような痛みは発現しない。その他の整形外科検査でも特に陽性のものはない。
診断は異常感覚性手痛cheiralgia paresthetica。撓骨神経の純知覚枝である浅枝が前腕中下3分の1あたりで絞扼障害を受けたものである。撓骨神経浅枝は肘部付近で分枝した後、前腕の撓側を下り、腕撓骨筋の腱を通り撓側背部の皮下に出て、手関節から手背の撓側を支配する。Durrantによると、きつすぎる腕時計のバンドやシャツの袖口、ガングリオン、手首の骨関節症、石膏キャスト、スクリュー・ドライバーやキーボードの連用などが誘発因子となっている。後になって患者から聞いたのであるが、発症前にご主人と喧嘩をし、手首を強く握られ引っ張られたとのことであった。
[症例6. 56才男性]
山歩きの後に一下肢に痛みが発現して来院。山歩き同好会に所属していて月に一度ほど皆で山を歩く。キャリアは長いのだが、この日は体調が悪く、自分のペースで歩けなかったと振り返る。症状は臀部痛が第一で、下腿外側あたりまで痛みやシビレ感が出現するという。仰臥位で寝ていると、患側仙骨部に鈍痛を感じるため、横向きになって寝ている。根性坐骨神経痛の様であるが、検査ではあまりはっきりと出てくれない。SLRでは症状の再現がなく、反射も異常ない。知覚は患側下腿がやや過敏だが、その他は特記することなし。症状を再現する肢位を探していくと、股関節内旋・内転・屈曲を併せた形であった。さらに梨状筋の圧痛が確認され、上記の肢位に同筋への押圧を加えてやると、症状が発現しやすかった。診断は「梨状筋症候群」piriformis
syndrome。根性坐骨神経痛と間違いやすい絞扼性神経障害である。梨状筋のスパズムや圧痛、整形外科検査(患側下肢を内旋・内転させてSLRを行なう)Bonnet等で鑑別していく。仙腸関節機能障害も誘発因子のひとつと考えられている(DiGiovanna、Durrant)。
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